ダダダイズム(ヤプーズ)

水声通信 (No.7(2006年5月号)) 特集 ダダ 1916-1924を読み始める。当たり前だけどダダが破壊のみではないこと、シュルレアリスムによって乗り越えられたわけでもないことを再確認。塚原史の「ダダの世界化から世界のダダ化へ」の注26に驚く

2006年1月4日午前11時30分頃、小型ハンマーを隠し持った男がダダ展会場に侵入し、デュシャンの<<泉>>を傷つけたのだ(便器は修復のため撤収された)。犯行直後に逮捕された男の名はピエール・ピノチェリ、77歳の自称コンセプチュアル・アーティストである。現地からの報道によれば、ピノチェリ氏は確信犯で、すでに1993年にも南仏の展覧会場で<<泉>>を便器として公然と使用し、罰金刑を課せられた前科があるという。今回の事件で問題となるのは損害額の算定だろう。というのも、すでに見たとおり、<<泉>>は既製品の小便器であり、それも1917年のももは失われ、現存する「作品」は1964年にミラノの画商シュヴァルツが作らせてデュシャンに``R Mutt”とサインさせた八個のレプリカのうちのひとつにすぎないからだ。つまり、もともと複製だった「オリジナル」の「コピー」でしかない「便器」にどれほどの価値があるかだが、リベラシオン紙によると、パリ地裁でポンピドゥ側は<<泉>>の評価額をなんと280万ユーロ(約4億円!)と見積もり、裁判長は被告人に20万ユーロ(訳2800万円)の罰金刑を言い渡したが、ピノチェリ氏は即時上告したという。裁判の今後の展開が注目される。