落書学

飲みながら寺山の「詩的自叙伝」を読んでいるんだが、そのなかの「落書学」が面白い

四十一歳の男、性欲がなくなった。
どうすればよいか教えてください。


という新大久保の落書きに

四ツ谷三丁目鹿谷医院に行って相談しなさい。
→使いすぎだ。しばらく休ませよ。
→トロロ、ナマコ、ホルモン、ニンニク、松毛虫、うなぎのきも、アスパラC。
→死ななきゃ治らない


と、次々と書きこんでゆく排泄者たちのゆきずりの人生処方箋は、一つの見えないコンミューンを構想している。それを、連歌との共通性について論じようとは思わぬが、時差をへだてて、「書く」ことによって結ばれてゆくのは、少なくとも詩人の自閉癖からの解放を思わせる。「雲はあふれて自分を捨てる 人はあふれて心を捨てる 捨てたことばに未練はないさ......」といった文学性は、便所の壁にあっては、トロロ、ナマコ、ホルモンといった単語の重みにはおよばない。

便所の落書き」たるネット言説のポテンシャルってのを考えちゃうよね。