政治家の文章

武田泰淳『政治家の文章』読了。「政党全滅」をめぐるもろもろの文章より引用

では、「政党全滅」という事態をひきおこした、その根本的な原因はどこにあったのだろうか。政党などはなくなっても、さしつかえないから、もう少しまともな政治をやってもらいたいと言うような気運が生じ、あいまいな形で、ほんの一瞬ではあったが、現実にそれが具体化された、その可能性は一体どこにはぐくまれていたのだろうか。国会を占有し、思いのままの「国策」を押しつけようとする、軍部の圧力だけで、発生した異常な事態だったのだろうか。ある日、いきなり発狂したり、ある夜が明けて突如として盲目になったりすることは、個人の生活にもありうる。しかし、あの「新体制」をめぐる「異変」は、脳を狂わせる病菌を発見し、それを根治する注射薬が発明されれば、一回ぎりの不幸として克服されるような、そうした過去の病状として忘れ去ってしまえるものだろうか。「戦争の病室」の中だけに充満する異常神経で、「平和の公会堂」にはまぎれこむはずのないものだと、片づけてしまえるものか、どうか。

どうか。